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生産量がピークとなった78年には一15万ヘクタールが伐採され、987万立方メートルもの丸太が伐り出された。
その49パーセントは日本向けだった。
しかし、インドネシアが原木の輸出を大幅に制限し始めた80年以来、積み出し量は激減し、代わってベニャエ場が雨後の笥のように乱立している。
このベニヤも主として日本向けに輸出される。
国際自然保護連合(IUCN)の報告書が「今世紀最大規模の森林災害」と形容した山火事は一方ほどの面積が灰になってしまった山火事だ。
大興安嶺の山火事が記録を塗り替えるまでは、「史上空前」の規模だった。
ボルネオ島は、グリーンランド、ニューギニアに次ぐ世界第3の大きな島で、北西部分の3分の一ほどをマレーシア領とミニ国家ブルネイが占め、残りがインドネシア領のカリマンタンだ。
「東南アジアのブラジル」と呼ばれるように熱帯林が茂り、世界の熱帯林の10パーセントに相当する一億1390万ヘクタールを保持するインドネシアで、その3分の一がここにあるという東南アジアきっての木材の宝庫でもある。
東カリマンタンの州都バリクパパンは、天然ガス・ブームに沸き、近代ビルも並んでいる。
ここから車で一時間ほど走ると、木材の町、サマリンダだ。
1968年ごろから日本向け木材の積み出し港として栄え、70年代初めの全盛期には日本の商社や木材会社の駐在事務所があり、300社を超える伐採業者が集中して、ラワン材などを伐りまくり、港にも海面の見えないほど丸太が浮か983年11月、ちょうどこの伐採地から北にかけて発生した。
火は約4カ月間燃え続けた。
地表の火が見えなくなっても、根や地中のビート(泥炭)がまだ土中でくすぶってあちこちで温泉場のように煙を噴いていた。
インドネシア政府の開発計画の顧問をしていたドイツ人のW・ワイスナー博士は、乾き切った巨木が60メートル以上の火柱となって燃え上がるのを目撃している。
とくに木に絡み付く藤は油分が多くて燃えやすく、それを伝って火の球が樹上高くはい上がったという。
一度消えても、根やビートを伝ってとんでもないところから再び燃え出した。
山火事の直後、現地を訪れた人によると、バリクパパンからサマリンダに向かう道路沿いは火になめ尽くされ、黒焦げになった立ち木が延々と続いていたという。
さらに、日本の商社がもっとも多くラワン材を伐り出したマハカム川に近づくと、この常緑の熱帯林がまるで冬のような光景に変わっていた。
林床を焼き払った火にあぶられて高木が葉を落とし、その葉にまた火が移って、森林全体が丸焼けとなってしまったのだ。
5月に入って雨の続いたあと、ようやく現地調査が可能になった。
空と地上の調査から、焼失面積は350万ヘクタールに及ぶことが分かった。
この内訳は、原生林80万ヘクタール、伐採跡地140万ヘクタール、2次林や地元民の焼き畑跡地75万ヘクタール、湿地林50万ヘクタールなどとなっている。
林床に有機物が堆積して泥炭化していた55万ヘクタールでは、火のついた泥炭の発する高熱のため、森林は回復不可能なほどに壊滅した。
森林に棲む動物たちの犠牲は大きかった。
焼け跡からオランウータンの死体や頭の骨が見つかつている。
彼らはふだんは木の実や果実を主食にしているが、これが姿を消したために今は樹皮で命をつないでいるという。
再び実がなるのには何年かかかる。
100年前にはボルネオ島だけで、数十万頭がいたといわれるオランウータンは、今では5000頭ほどで、国際的に保護がもっとも必要な動物のリストに入っている。
この一帯で烏の調査をしてきたハーバード大の鳥類学者、M・L博士は「7種類のサイチョウが生息していたが、火事の後ではまったく見なくなった」という。
他にも、サイ、ムササビ、コウモリ、シカ、ヒョウの類に被害が出たと推定される。
西ドイツの調査によると、大径木の61パーセントは焼けて枯れたが、残りも火事後に大発生した害虫やカビで被害を受けた。
鹿児島大学のT教授ら文部省の学術研究班が、火事の3年後の86年7月に調査のために現地入りした。
T教授は、森林のあちこちで、大木がわずかな風ですさまじい音を立てて倒れるので危なくて仕方がなかったという。
火勢の強かった場所では、高さ50〜60メートルもある巨木が葉や枝を落として、まるで電柱のように突っ立っているのが異様だったとも語っている。
被害額は大まかな推定しかできないが、西ドイツの援助機関の推定では1000万立方メートルの木材で55億ドル(8800億円)の損失、そして将来の木材として3500万立方メートル失ったとみる。
インドネシア政府は60億ドル(9600億円)の被害で、これは東カリマンタン州の37年分の予算に相当するという。
生態系や貴重な動植物の被った被害は算定のしょうがない。
この山火事の後、84年6月にマハカム川で空前の洪水が発生し、家の屋根まで冠水した。
マレーシアでは大雨が続き、ゴムの収量が大幅に落ちた。
シンガポールでも各地で洪水が発生した。
煙に含まれる微小なちりが雨の核になって、大雨を降らしたのではないかともいわれている。
被害の少なかった原生林火災の原因をめぐっては議論が続いている。
しかし、その前年の1982年6月以来続いていた干ばつが最大の原因であったことには異論がない。
過去50年間の平均雨量と比較すると、サマリンダでは34パーセント、バリクパパンで31パーセントしかなかった。
確かに当時はエルニーニョと呼ばれる太平洋の海流異変で、世界的に異常気象が頻発していた時期である。
南米の太平洋岸では異常な大雨だったが、東南アジアでは雨が少なくなり、ところによっては干ばつになった。
だが、それだけでは解けない謎がある。
山火事の現場から北に150キロほど離れたタラカンでは、雨量はほぼ平年なみだった。
また、この一帯では10年に一度は干ばつがやってくるが、前回の1971年も、それ以前の雨不足のときもこのような大山火事はなかった。
被害を調べてみると、最近の伐採が進んでいた地域ほど被害が大きかったことから、伐採が引き金になった森林破壊が山火事を誘発したとする見方が強くなってきた。
東カリマンタンは50年代までは、ダヤク族など先住民が原始的農業と狩猟・採取で生活していた未開地だったが、60年代に入って島外からの入植者による伐採や焼き畑で、急激な破壊が始まった。
その森林に及ぼす影響を調べるためにサマリンダの北111キロのレンパケ地区で1971年以来、国連のユネスコが世界的に展開した自然と人間の関係を問い直す「人間と生物圏」(MAB)計画の調査が、インドネシア、米国などの生態学者によって続けられていた。
伐採が森林を破壊するという批判に対して「ラワンなどの有用木は一ヘクタール当たり10本もなく、この中から数本を選択的に択伐するのだから、森林への影響は少ない」というのが、伐採側のいい分だった。
だが、実際に伐採地を調査してみると、調査区内では林道、貯木場、巨木をブルドーザーで引きずり出した跡など、森林面積の3割以上が破壊されていた。
また、伐採された大木が倒れるとき、引きずり出すときなどに他の樹木の40パーセントが傷つけられ、空洞木や芯腐れを起こす原因になっていた。
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